事例紹介

CASE 03

  • AWL
  • メディコム
  • サッポロドラッグストアー

サツドラが描く小売の未来
―ドラッグストア×AIで店舗のメディア化に向けた第一歩

2017年、「リージョナル(地域)プラットフォームとAIの融合による次世代の顧客体験の創造とソリューション開発」を目的とし、サツドラホールディングス株式会社(以下、サツドラHD)と株式会社AWL(当時はエーアイ・トウキョウ・ラボ株式会社)が資本提携を実施しました。2019年にはAIカメラソリューションのさらなる拡販を目的にAWLがサツドラHDの連結子会社から外れ、同時にAIカメラソリューションサービスの共同開発等を目的とした業務提携を発表しました。

現在、同建物内にサツドラHD本社機能を備えるサツドラ北8条店では、80台のAIカメラと映像処理・分析ツール「AWL BOX」、37台のデジタルサイネージが導入されています。これらのカメラから収集した映像はAIによりデータ化・分析され、店舗のオペレーションや売り場改善などの実証実験に活かされています。今回は、ドラッグストア×AIをテーマにサツドラが描く小売の未来への挑戦を、株式会社サッポロドラッグストアーの越田、株式会社AWLの土田安紘氏、サツドラとAWLの両社に所属するメディコム株式会社山本剛司にお話いただきます。

Person:各発言者の表記方法は次のとおり記載しています

  • 株式会社サッポロドラッグストアー
    ドラッグストア事業本部 商品部 ゼネラルマネジャー
    越田 恭行

    越田

  • 株式会社AWL
    取締役CTO
    土田 安紘

    土田氏

  • メディコム株式会社
    山本 剛司

    山本

※ 所属、役職等はインタビュー当時のものです

“エンドに置けば商品が売れる”のは本当か?
データで紐とく様々な試み

そもそもどうしてドラッグストアの店舗でAIを活用しようと思ったのでしょうか?

越田: 小売業界では、店舗内の棚の中でも通路に面したエンドと呼ばれる場所に置けば商品が売れる、といった言わば”都市伝説”のような通説がたくさん存在します。しかし、それらはデータに裏付けされておらず、実際のところどうなのか?をAIカメラで検証していこうと考えたのがきっかけです。

具体的にどんなことが分かってきたのでしょうか?

山本: これまで、店舗に何人のお客様が来店され、どのような順路でお買い物をされているのかを調べようと思うと、従業員が一日中カウンターを持って数えなくてはなりませんでした。しかしAIカメラが導入されるとその工数を割く必要がなく、さらに人間がやるよりも正確にデータを拾えることに大きな価値を感じましたね。それがAIを導入して最初の感動だったかもしれません。

越田: 私たちはもともと入店したお客様のうち8割が入り口から直進している、という前提で商品陳列の設計をしていたのですが、ある店舗のデータを分析した結果、入店後直進するお客様は全体の5割だったことが分かりました。これは売り場づくりに大きなインパクトを与える結果でしたね。

土田氏: WEBだと認知から購入までの一連の行動は全て分かりますし、そのログデータを元にシミュレーションやABテストをして最適な打ち手を高速に見出すことができます。小売の店舗内においても同様に、お客様の認知から購入までをデータ化できれば絶対に貢献できると考え、AWLとしても取り組ませて頂いています。

山本: 私たちがやりたいことは、「なぜこの商品は売れるのか?もしくは売れないのか?」「この店舗はとても実績が良いけどなぜなのか?」「お客様にとってわかりやすい売場になっているのか?」という疑問を、正しいデータを元に分析して、快適にお買い物をしていただくための打ち手を考えていくということなんです。

同じ屋根の下で議論し、開発し、
すぐに実店舗で検証できる強み

実際にAIカメラはどのように導入し、検証を重ねていったのでしょうか?

山本: 人間の目視計測をAIに置き換えるといっても、そもそもAIのデータが本当に正しいのか?ということを確認する必要がありますよね。そのため、AIカメラでカウントしている入店人数を、同じ様に人間でもカウントしてデータを付け合わせるといった精度検証を、かなり早い段階から何度も繰り返してきました。
この建物は1階が店舗で2階と3階に我々がいるので、機能が出来上がったその日のうちに店舗で検証できる環境があります。このスピード感は相当な武器だと思いますね。

土田氏: AWLが提供しているサービスは、高額な機械ではなく、小売が導入可能な1台数万円の機械を使っているのがポイントです。低価格な機械でも充分な性能を出すために全力をあげて開発していますが、開発者がいくらデモスペースで検証を繰り返しても、最後は実店舗で使ってみてPDCAを回す必要があります。現在までに挙げられた成果は、2階と3階で開発したものを1階の店舗ですぐに検証できるという環境があったからこそだと思います。

山本: この距離感で会話ができるのも強みだと思います。小売企業に何らかのテクノロジーを導入する際、共通言語の乏しさが問題になることが少なくありません。
ベンダー側のエンジニアが語る小難しい言葉は、多くの小売の人間には理解できずコミュニケーションが成立しないことがよくあります。でもAWLは違うんですよね。課題があったときも小売側が分かる言葉で伝えてくれて、課題を乗り越えるアクションを一緒に考えてくれるので、やっていることが我々の中で積み上がっていくんです。
競合からも視察の相談を受けるほど、サツドラ×AIの取り組みは小売の中でも広まってきています。

AIカメラを活用しデータをとることで、店舗の利用客や商品を卸すメーカーにどう影響があるのでしょうか?

越田: お客様一人ひとりが本当に欲しい情報を得ることができ、商品を購入できるお店を目指していくのが次のフェーズだと考えています。そのために、お客様それぞれに応じた広告配信や商品展開をメーカー様と協力しながら進めていく必要があるので、これから取り組む店内サイネージの広告配信も、性別や年代を判断してやっていこうと思っています。

土田氏: 属性別配信はあくまでスタートで、最終的に商品をとったのか?他の売り場で何をしたのか?といった行動まで結び付けられると、よりお客様一人ひとりに刺さる売り場や広告をが実現できるようになると思います。そうなれば、お客様にとって「サツドラって自分のためにあるのかも?」といった感覚を持てるくらい居心地の良い買い物体験を実現できるはずです。

越田: この取り組みはメーカー様の販促費という観点からもメリットがあると思っています。AIカメラによって属性を絞れるため、その商品をほしいと思っているであろう人、売りたい人に絞って広告を展開できます。他のどの小売店舗よりもデータに基いた施策が打てる企業という存在になりたいですね。広告がマスからターゲティングへという移り変わっているように、リアルな店舗でもマスからターゲティングへと打ち手の矛先が変わっていくのだと考えています。

山本: メーカー様からの期待は本当に感じていて、実際に「AIカメラやサイネージを活用してプロモーションの実験をしてみたい」「データを活用して売場改善をしたい」というご相談を受けることが多くなりました。協業したメーカー様の商品の販売実績が大きく伸長したという結果も出てきています。
AIというと一般にエンジニア目線で開発が進み、小売が欲してる以上の過剰な機能やプロダクトに狙いを定めがちです。結果、もの凄く高額になり導入障壁となることをずっと目の当たりにしてきました。しかし私たちのチームでは、真に必要な機能をローコストで実装して、出来上がった仕組みをすぐに一階の店舗を使ってPoCをやれる、そして機能改善を繰り返していく、このスピード感が我々の強みです。

AIを活用し、お客様それぞれにカスタマイズされた
居心地のよい店舗へ

2020年2月に、サツドラ、AWL、サイバーエージェントによる業務提携が発表されました。どんな取り組みか教えてください。

山本: 「店舗をメディア化させる」という言葉がよく使われますが、単純にサイネージが置かれてそこで映像が流れています…というものではなくて、それぞれのお客様にマッチした広告を上手く出し分けていき、その結果商品を買っていただけるという世界観を作り上げたいと思っています。サイバーエージェントさんと我々でAIを活用して、意識しなくとも広告が自然とお客様に届くような世界を実現するために、分析を踏まえて広告配信をやっていくという取り組みです。
2021年12月の中旬から、協働プロジェクトの導入が始まる予定です!

越田: これまではいわば第1フェーズ。細かなトライアンドエラーを積み重ねた結果、どんなデータが取れどのように活用できるのかがはっきりと見えてきました。サイバーエージェントさんとの協業は、まさに我々が取り組む「ドラッグストア×AI」の第2フェーズで、これまでのことを活かして行きたいと思っています。

今後の意気込みをおしえてください。

山本: AIカメラを使った広告配信は、日本のドラッグストア業界の中でも非常に先進的な取り組みです。これまでは自分たちの店舗にも関わらず店の中で一体何が起きているのか、正しい情報を把握できていませんでした。それが、今回のような取り組みを通じてどんどんと見えてくると思うんですね。ものすごく可能性を感じていますし、楽しい仕事だと感じています。

越田: 私が所属する商品部としては、まずはお取引先様にこの取組みの意義や価値を分かっていただかなければなりません。それには私たち自身もさらに取り組みへの理解を深めなければならないですし、お取引先様への発信を増やしていく必要性を感じています。それが最終的にお客様にとって居心地のよい店舗づくり、そしてお客様それぞれに最適化された購買体験を提供できることに繋がっていくと信じています。

土田氏: ECサイトと同じくらいお客様の行動がデータ化されていれば、リアルな店舗づくりや広告ビジネスやマーケティングなどに活用できるはずだと思っています。そのなかでAWLが追求すべきは、リーズナブルな機械で、より精度よく、多くのお客様の行動をデータ化することです。それができれば、ECサイト以上にお客様ごとにカスタマイズされた至極の購買体験ができる店舗になるはずです。

WEB以上にお客様それぞれにカスタマイズされた
次世代の購買体験に向けて

「取り組みの中で大変だったことは?」と尋ねると、口をそろえて「全て(笑)」という答えが返ってきました。議論を重ね、検証を重ね、少しずつ形をつくってきた第1フェーズ。第2フェーズであるサツドラ、AWL、サイバーエージェントの取り組みもすでに実証実験を経て多店舗展開に向けて動き始めています。お客様それぞれにカスタマイズされた居心地の良い、次世代の店舗の姿を世界で初めて体験できる日が訪れるのは、そう遠くはないはずです。

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